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自己都合退社 (21)

 翌朝一番に人事副部長と検査部から3名が開店前の支店に入ってきた。支店長は代理の椅子に座って、代理は支店長室に呼ばれている。今日はユミを休ませている。仕方なく私がテラーの席に座る。支店長室の副部長と代理は出前を取って下に降りてこない。まだ行員は事情が呑み込めてないようだ。
 携帯が鳴った。リエからだ。シャッターが下りてから裏口から出て携帯をかける。
「予定通り検査が入った。人事は代理と面接をしている」
「やはり私辞めないとダメだよね?」
「副部長にはサロンの話はしてある。代理がどこまで言うかだが」
「今友達と一緒にアパートに来て荷物を出して、不動産屋で解約届出した。明日どうしたら?」
 声が震えている。
「夜に副部長に聞いてみる。それから電話をする」
「待ってます」
 部屋に戻ると代理が瞬きもせず私を見据えてそのまま出ていく。支店長が入れ違いで降りてきて、
「副部長が代理補を呼んでいる」
と少し安心した声で伝える。
「いや、危機一髪だったよ。検査の数字と代理の申告はほぼ合っている。出納の金が50万ほど。大金庫の記念硬貨を200万抜いていた。検査はもう2日入れるがそんなものだろう。明日から代理は人事部付になる。それで退職金で相殺して退職してもらう」
「ユミのことは言っていました?」
「サロンに勤めているとか。だがストーカーが出てきたら警察沙汰にすると釘を刺しておいた。こういうのは円満解決に限る。これから付き合えよ」








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ストーカー (20)

「これなら廃店を免れそうだよ」
 支店長室に入ったら珍らしく大声で笑っている。今日実行した英会話の融資9700万のことを言っているようだ。
「いえこのままでは廃店は免れないと思います」
「それはどういうことだね?」
「代理です」
「彼はどうかしたのか?」
「テラーのユミさんのアパートに代理はもう1週間住み込んでいます」
「どうして?」
「ストーカーです。彼女は友達のところに泊まっていて相談を受けました。私も話をしましたが、もう線が切れています。調べてみましたがここ6か月で金が合わないことが7度も起こっていますね?」
「足らない分は私が補充してきた」
「どうももっと大きな金額がなくなっているように思います。このままでは」
「どうすればいい?」
 急にいつもの頼りない顔に戻る。慌てて部屋の鍵をかける。
「今日にでも代理の奥さんに会ってください。私は人事副部長と会って説明してみます」
「うまく行くかな?」
「ことが大きくならないうちに本店と話するしかないですね。ユミさんは私が本店に行く時に連れ出すます。代理には気分が悪くなったとでも言っておいてください」
 ユミを呼び出すとそのまま外に出た。







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兄になる (19)

「帰れって言わないの?」
「お兄さんの替わりでもいいと思った」
「なら今晩は港の見えるホテルに泊まりたい」
 しばらく坂道を下っていくと洋館風のホテルがあった。
「ラッキー!いつもの部屋が空いていた。夜は港を見ながらビールを飲んだ」
 そう言ってビールを2本空けると、下着姿になってベットに潜り込む。
「風呂に入らないのか?」
「兄は汗臭いのが好きだった。私も汗で燃えるの。私の仁王を可愛がって」
 朱里は裸になると別人のようになる。
「乳首も舐めて」
「今日も一段と立っている」
「兄はお前のちんぽだと笑っていたわ」
 確かに反り上がるように乳首が立っている。体中を舐め合うので口の中が塩辛くなる。朱里は分かっているらしく2本目のビールを飲むと口移しで飲ませてくれる。朱里は兄と同じことをしようとしている。今度はビールを含んで私のものを銜える。
「大きくなったら私のお尻に入れるの。そうそうよ」
「初めて?」
「ああ、持ちそうにない」
「だめ、もっと頑張るの。首を絞めて」
 生暖かいものが足に飛び散って、朱里が前のように白目を剥いてのけぞる。慌てて顔を揺すぶる。気を取り戻したのか今度は涙を流して唇を吸う。
 ああ、ここから港の夜景がよく見える。










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港の見える丘 (18)

 代理には昼食を共にしてリエの話をしたが、唾を飛ばして吠えられて諦めた。どうも正気ではない。リエには思い切って銀行を辞めたらどうかと勧めたが、
「ここは気に入っている」
と断られた。近いうちに支店長と話そうと思っている。
 今日は初めて日の高いうちのデートだ。少し暖かくなった神戸の異人館の坂道を歩く。
「こんな明るい色は珍しい」
 朱里は淡い緑色のセーターを着ている。
「詳しいんだな?」
「だってずっと神戸だったから。ここのステーキハウスから港がよく見えるのよ」
「恋人と?」
「兄さんとよ」
「兄さんこと聞きたいな」
「話すのを躊躇っている。でも話すから嫌いになったら言ってここから帰る」
「朱里のことはすべて受け入れる」
「実は10歳の頃母が元町のアパートから消えたの。それから5つ上の兄に育てられた。19歳で暴走族のヘッドになって私はその稼ぎで学校を出た。初恋は兄よ。14歳で私から抱かれた。仁王の入れ墨にいつも抱かれていた。短大を卒業して新開地のあのアパートに新婚のような気持ちで移った」
 長い間ぼんやりと海を見ている。
「私は何度も兄の子供を産みたいと思ってしたけど、兄はいつも私の中に出さなかった。そんな時に兄はパトカーに追われて崖からオートバイごと落ちてなくなった」
「それで仁王を背負ったんだな」





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代理 (17)

「また会ったよ。向こう側の商店街を歩いていた」
「それがどうかした?」
 ユミは手が空くと話しかけてくる。
「だってあそこはソープ街の入口だから」
「それは勘繰りだなあ」
「分かったもう言わない。今日少し相談に乗ってほしい」
「喫茶店で1時間だけ」
 ようやく英会話の融資の稟議書を書き上げて支店長の判を貰う。さすがにペラペラ捲って判を押す。
「よく社長が乗ったな」
 その一言を聞いて6時には商店街に出て後ろから出てきたユミと地下街の喫茶店に入る。
「今日は店にはいかないのか?」
「休みを貰った。代理のことなんだけど」
「常連だろ?」
「もう何度もアパートに押しかけてきて」
「何歳だ?」
「52歳の2人の子持ち。私のアパートに強引に押しかけてきた。店も止めるつもり」
「君は?」
「友達の部屋に泊まっている。それに銀行の金を使い込んでいるようなの。月に10度は店に屈る。1回2万は使っている。初めはいいカモだと思ってたけど今は恐ろしい」
「支店長には?」
「頼りない」
「しばらく様子を見てみる」







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夢人です。『ぽろんの女』の短編を書き下ろしてふと震災後にその街を訪ねました。それであの頃の日記を開いてみました。この街で刺青の仁王と暮らしたことが。

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